「晩夏 上」ちくま文庫
Adalbert Stifter / 藤村 宏
アーダルベルト・シュティフター
「晩夏 下」ちくま文庫
Adalbert Stifter / 藤村 宏
アーダルベルト・シュティフター
「この小説を最後まで読み通した方にはポーランドの王冠を進呈する」とまで言われた、きわめて静的な作品.
何か事件が起こることを期待して本書を手に取った人は、ポーランド王にはなれないだろう.
しかし、「読む」という行為をこれほどまで味わわせてくれる小説は他にない.
芸術とは何か、美とは何か、自然とは、人生とは何か……
およそ人間にとって欠かすことのできないもっとも大切なものだけが、穢れたものをなにひとつ伴うことなく、それこそ水晶のような純粋さで語られる.
この透徹とした感覚は、日本古典の随筆や俳句、短歌、あるいは中国の漢詩などにみられる美と酷似している.
だが、それらが総じて極端に寡黙であり、かつまた非生活的な隠者の趣を持つのに対して、『晩夏』の透明感はあくまで未来に向かって開かれているのである.
世俗を離れ、自然のなかに生き、古い芸術を愛するという人生が、しかし同時に青年の成長の日々であり、家族との繋がりや清潔な恋愛、やがては輝かしい結婚へと結びついていく――この美しさたるや筆舌に尽くしがたい.
『晩夏』を読み終えた人が得るものの価値は、ポーランドの王冠などとは比較にならないだろう.
それは善美の泉に心を浸すことに他ならないのだから.
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